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萩焼の特徴とは?魅力・他の焼き物との違いをわかりやすく解説

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やわらかな色合いと素朴な風合いで、長く愛されている日本の伝統陶器「萩焼(はぎやき)」。一見シンプルに見えるその姿には、土と釉薬、そして炎が生み出す自然な美しさが詰まっています。特に「萩の七化け」と呼ばれる経年変化は、使う人の手になじみながら表情を変えていくという、他の焼き物にはない大きな特徴です。本記事では、萩焼の歴史や魅力的な特徴をはじめ、他の焼き物との違いや選び方・楽しみ方までを、初心者にもわかりやすく丁寧にご紹介します。これから萩焼にふれてみたい方も、すでに興味がある方も、ぜひその奥深い魅力を知ってみてください。

萩焼の基本情報と歴史的背景

萩焼とはどんな焼き物?発祥と歴史

萩焼(はぎやき)は、山口県萩市を中心に作られている日本の伝統的な陶器です。その歴史は、江戸時代初期の慶長年間(17世紀初頭)にまでさかのぼります。毛利輝元が朝鮮から渡来した陶工・李勺光(りしゃくこう)らを萩に招き、萩藩の御用窯として焼き物づくりを始めたのが発祥とされています。当時は茶道が盛んであり、茶人たちから「一楽二萩三唐津」と称されるほど萩焼は高い評価を受けてきました。現在では、国の伝統的工芸品にも指定されており、窯元や作家による多様な表現が受け継がれています。手作業ならではの温かみと、素朴で控えめな美しさは、時代を超えて多くの人々に愛され続けています。

茶の湯文化とともに歩んだ萩焼の発展

萩焼の発展には、茶の湯文化の影響が大きく関係しています。茶道では、「侘び寂び」の美学が重視され、豪華さよりも静かで控えめな趣が尊ばれます。萩焼の土の質感や釉薬の控えめな色合いは、まさにその精神にぴったり合致していたため、茶人たちに深く愛されたのです。特に茶碗としての萩焼は、使い込むほどに色が変化し、手にしっとりと馴染んでいくことから「育てる器」として重宝されました。また、茶室のしつらえに溶け込む自然な美しさも魅力の一つです。茶の湯との関係は今も続いており、現代の茶道具としても多くの作家が萩焼を制作しています。茶道文化を知るうえでも、萩焼の存在は欠かせない要素といえるでしょう。

現代でも受け継がれる萩焼の伝統

現代においても、萩焼の伝統はしっかりと受け継がれています。萩市を中心とした地域には多くの窯元が点在し、それぞれが独自の作風を追求しながらも、伝統的な技法や精神を大切にしています。登り窯や穴窯などを使った本格的な焼成を続けている工房も多く、火の力によって生まれる自然な窯変(ようへん)や風合いが現代人の感性にも響いています。また、若手作家たちは従来の茶道具だけでなく、日常使いの器やインテリア性の高い作品も手がけており、新たな萩焼のスタイルを確立しています。展示会やオンライン販売を通じて全国のファンとつながるなど、伝統を守りながらも時代に合わせた進化を遂げているのが、現代の萩焼の魅力です。

萩焼の主な特徴と魅力

柔らかな色合いと温もりのある質感

萩焼の第一の特徴として挙げられるのが、やわらかな色合いと土の温もりを感じさせる質感です。淡いベージュや桃色がかった釉薬が多く使われており、器全体に落ち着いた優しい雰囲気を漂わせています。この色味は、地元・萩で採れる粘土の特性と、薄くかけられる釉薬との組み合わせから生まれるものです。また、釉薬の下に見える土の粒子や、部分的に釉薬がかかっていない部分からは、自然素材そのままの風合いが感じられます。たとえば、手に取ったときのしっとりとした手触りや、使うたびに変化する見た目は、他の焼き物にはない萩焼特有の魅力です。華やかさよりも、素朴さや静けさを大切にする日本の美意識にぴったりと寄り添う焼き物、それが萩焼なのです。

貫入と「萩の七化け」による経年変化

萩焼を語る上で欠かせないのが、「萩の七化け(ななばけ)」という経年変化の美しさです。萩焼は、焼成後に表面に貫入(かんにゅう)と呼ばれる細かいひび模様が入るのが特徴です。この貫入は釉薬と素地の収縮率の違いによって自然に生まれるもので、器を使う中でお茶や料理の色素がそのひびに染み込むことで、徐々に色合いが変化していきます。たとえば、使い始めは淡いクリーム色だった湯呑みが、数年後には茶色や灰色を帯びた風合いに変わっていることもあります。この「育てる器」としての側面は、愛着を持って長く使いたくなる大きな魅力です。七化けという言葉は、「少なくとも七回は表情を変える」という意味を持ち、時間をかけて自分だけの器に育てていける楽しさがあります。

土と釉薬が生む表情の豊かさ

萩焼は、土と釉薬の自然な反応によって、ひとつひとつ異なる表情を持つのが特徴です。使用される粘土には複数の種類があり、それぞれの粘土の個性によって、焼き上がりの質感や色味が大きく変わります。たとえば、大道土(おおみちつち)はやわらかく、淡い色に仕上がりやすい一方、金峯土(きんぽうつち)などは力強い風合いを持つ焼き上がりになる傾向があります。また、釉薬も透明感のある白萩、赤みを帯びた緋色、灰色がかった「灰萩」など、さまざまな種類が存在します。さらに、焼成時の温度や炎のあたり具合によっても模様や色が微妙に異なるため、同じ形・同じデザインでも、全く同じ作品はふたつと存在しません。この一点物の魅力が、萩焼をコレクションする楽しみをさらに深めてくれます。

他の焼き物との違いを知る

有田焼・美濃焼・備前焼との比較

日本には多くの伝統陶器がありますが、萩焼はその中でも独特の個性を持っています。他の代表的な焼き物と比較すると、その違いがより明確になります。たとえば、有田焼は白磁に繊細な絵付けが特徴の華やかな焼き物で、見た目の美しさや高級感が際立っています。美濃焼は種類が豊富で、日常使いに適した実用的な器が多く、釉薬の技法もバリエーション豊かです。一方、備前焼は無釉で焼き締める焼き物で、土の質感をダイレクトに感じられる重厚な作品が多く見られます。それに対し、萩焼はやわらかく素朴な風合いを持ち、淡い色合いや経年変化に重点が置かれています。装飾や華やかさよりも、「素材と使い心地」を大切にする萩焼は、他の焼き物とは異なる“静かな美しさ”を楽しむことができるのです。

「派手さ」よりも「侘び寂び」の美を重視

萩焼のもう一つの大きな特徴は、華やかさや技巧的な派手さではなく、「侘び寂び」に重きを置いた美しさにあります。たとえば、萩焼の器には絵柄や装飾が施されることは少なく、色味や質感の違いで静かな表情を見せるのが特徴です。日本の伝統美学において、「侘び」は不完全さや静けさを、「寂び」は古びて味わい深くなることを意味します。まさに萩焼は、派手な演出を避けることで、時間とともに深まる美しさや、手になじむ感触を通じて“育てる楽しみ”を表現しているのです。そのため、茶道の世界では「一楽二萩三唐津」と称されるほど、萩焼は高い評価を受けています。使い込むほどに表情を変えるこの焼き物は、まさに「時を重ねて完成する芸術品」といえるでしょう。

萩焼ならではの実用性と使いやすさ

見た目の美しさだけでなく、萩焼は日常生活での使いやすさにも優れています。陶器としては比較的軽く、手に持ったときのフィット感がよく、厚みも程よいため、湯呑みやマグカップ、茶碗などの日用器として人気があります。また、釉薬が薄くかけられているため、表面の手触りがなめらかでありながら、土のぬくもりも感じられる点が大きな魅力です。さらに、器の形状は丸みを帯びた柔らかなフォルムが多く、口当たりが優しいのも特徴です。熱い飲み物を入れても手に伝わる温かさが心地よく、冬場には特に重宝される焼き物です。このように、日々の暮らしの中に自然に溶け込む萩焼は、「見て美しい」「使って心地よい」実用性と芸術性を兼ね備えた陶器として、多くのファンに親しまれています。

萩焼の選び方と楽しみ方

初心者向けのおすすめ萩焼アイテム

萩焼に初めて触れる方には、日常使いしやすく、手頃な価格で購入できるアイテムがおすすめです。中でも人気が高いのが「湯呑み」や「マグカップ」です。これらは毎日手に取る機会が多く、萩焼の手触りや経年変化(萩の七化け)を実感しやすい器です。また、茶碗や小鉢もおすすめで、料理との相性が良く、テーブルに温もりを与えてくれます。最近では、洋食器との相性を考えた現代的なデザインの萩焼も多く登場しており、ナチュラルな食卓にもよくなじみます。初めて選ぶ際は、色合いがやさしく、形がシンプルで実用的なものを基準にすると失敗がありません。日常生活に少しずつ取り入れながら、自分の好みに合う器を増やしていくのが、萩焼の楽しみ方のひとつです。

シーン別に選ぶ萩焼の使い道

萩焼は多様なシーンで活躍できる焼き物です。たとえば、普段使いの食器としてはもちろんのこと、来客用の茶碗や湯呑みにも最適です。やわらかい色合いと手に馴染む感触は、丁寧なおもてなしの印象を与えてくれます。また、晩酌のひとときを演出する「ぐい呑み」や「徳利」などの酒器も人気です。さらに、花器としての萩焼も美しく、素朴な風合いが草花を引き立て、和室や玄関に落ち着いた雰囲気を添えてくれます。贈り物としても選ばれることが多く、結婚祝いや還暦祝い、退職記念など、さまざまなライフイベントに適した器が見つかります。用途や目的に応じて選ぶことで、萩焼の魅力をより一層楽しむことができるのです。

長く使うための取り扱いとお手入れ

萩焼は吸水性が高いため、正しい取り扱いとお手入れをすることで、長く美しく使うことができます。まず、新品を使用する前には「目止め」と呼ばれる作業を行うのがおすすめです。これは、器に水やお粥をしみこませることで、貫入に水分や色素が入りすぎるのを防ぐための処理です。日常のお手入れでは、使用後はすぐに水で洗い、乾いた布でしっかりと水分を拭き取ってから乾燥させましょう。湿ったまま収納するとカビの原因になることがあります。また、電子レンジや食洗機の使用は避けるのが無難です。こうした丁寧な手入れを続けることで、器は少しずつ色合いを深め、世界に一つだけの味わいある表情へと育っていきます。使うたびに愛着が増す萩焼だからこそ、正しい扱い方を知ることが大切です。

まとめ

萩焼は、やわらかな色合いと素朴な風合い、そして使うほどに変化していく「萩の七化け」によって、多くの人々に愛され続けている日本の伝統陶器です。有田焼や備前焼とは異なる、静かで控えめな美しさを持ち、日常に溶け込む実用性も魅力のひとつ。初心者でも取り入れやすい器が多く、手に取るたびに深まる愛着は、萩焼ならではの楽しみです。ぜひあなたも、萩焼の器とともに、ゆったりとした時間を味わってみてください。

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