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瀬戸染付焼の作り方とは?工程や技法をわかりやすく解説|体験できる場所も紹介

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瀬戸染付焼(せとそめつけやき)は、白磁に藍色の絵付けを施した、瀬戸市を代表する伝統的な焼き物です。手描きによる繊細な文様と、深みのある藍色の美しさが特徴で、食器やインテリアとしても高く評価されています。

この記事では、瀬戸染付焼の作り方をわかりやすく解説。原料選びから成形、絵付け、焼成、仕上げまで、職人の手によって一つ一つ丁寧に作られる工程をご紹介します。また、実際に作り方を体験できる施設や、自宅で楽しめる方法も併せて紹介しています。やきものに興味のある方や、瀬戸染付焼の魅力をより深く知りたい方におすすめの内容です。

瀬戸染付焼の制作工程を知ろう

原料となる陶土と磁器土の準備

瀬戸染付焼の作り方は、まず良質な陶土や磁器土の選定から始まります。瀬戸の地は古くから陶磁器づくりに適した粘土が採れることで知られ、その特性を活かして滑らかで白い磁器が作られてきました。染付焼に用いられるのは、特に白磁に適した「磁器土」で、焼き上がりの透明感と絵付けの発色を左右する大切な素材です。

土は、不要な不純物を取り除いた後、水と混ぜて寝かせる「熟成」の工程を経て、柔らかく成形しやすい状態に調整されます。この段階での品質管理が、後の成形や焼成の精度に大きく関わるため、職人の経験と技術が重要になります。

成形方法|ろくろ・型打ち・手びねりの違い

土の準備が整ったら、いよいよ器の形を作る「成形」工程に入ります。瀬戸染付焼の成形には、主に以下の3つの方法があります。

  1. ろくろ成形:最も一般的な方法で、電動ろくろを使って土を回転させながら成形します。お茶碗や湯呑みなど、丸みのある器に向いています。
  2. 型打ち成形:石膏型に土を押し当てて形を整える方法で、プレートや角皿、複雑な形状の器を安定して作るのに適しています。
  3. 手びねり成形:紐状の土を積み上げて手で形を整える伝統的な技法で、独特の個性が出せる一方、技術と手間が求められます。

それぞれの技法にはメリットがあり、用途やデザインによって使い分けられているのが特徴です。

素焼き|形を安定させる前段階

成形が終わった器は、数日かけてゆっくりと自然乾燥させた後、「素焼き」と呼ばれる低温焼成を行います。これは、絵付けや釉薬掛けを行う前に、器の形を安定させ、吸水性を持たせるための重要な工程です。

素焼きは約800℃前後で行われ、まだ本焼き前の柔らかい状態を保ちつつ、絵付けがしやすい状態に整える目的があります。ここまでの工程でも、乾燥のムラや歪み、ヒビなどが起こることがあり、職人は一つひとつ丁寧に状態を確認しながら進めていきます。まさに、瀬戸染付焼は手間ひまを惜しまない「手仕事の積み重ね」でできているのです。

染付の技法と表現の秘密

呉須(ごす)とは?藍色顔料の特徴

瀬戸染付焼の絵付けに欠かせないのが、「呉須(ごす)」と呼ばれる藍色の顔料です。呉須は酸化コバルトを主成分とした鉱物性の顔料で、素焼きした白磁に筆で描き、釉薬をかけて高温で焼成することで美しい青色に発色します。

描いた時には黒や灰色に見える呉須ですが、焼成後には深みのある澄んだ藍色へと変化するのが特徴です。呉須の種類や濃度によって、淡い水色から濃紺まで幅広い表現が可能で、これが瀬戸染付焼の絵付けに豊かな表情を与えています。筆のタッチや重ね具合によって微妙に異なる色の出方も、一つひとつの器に唯一無二の個性を生み出す要素となっています。

手描きによる絵付けの工程とコツ

瀬戸染付焼の最大の魅力ともいえるのが、職人による手描きの絵付けです。素焼きされた白磁の器に、毛筆を使って呉須で模様や絵柄を描いていくこの作業は、集中力と繊細な感覚が求められます。植物や動物、幾何学模様、風景などがモチーフにされることが多く、「余白の美」を活かした日本独自の感性が反映されます。

職人は、焼成後の色の変化を計算に入れて描く必要があり、完成品の色合いや線の太さを想像しながら筆を進めていきます。細かい絵柄では、筆先をわずかに振動させて濃淡をつけたり、線を引いたあとにぼかしを加えたりと、高度な技術が求められる繊細な工程です。この手描きの工程こそが、機械印刷では出せない温もりと深みを器に与えています。

透明釉をかけて高温で焼成

絵付けが完了した器には、表面をガラス質に仕上げるための**透明釉(とうめいゆう)**を丁寧にかけます。この釉薬は、呉須で描かれた絵柄を保護する役割もあり、焼成時に器全体を覆うことで、滑らかで艶やかな仕上がりになります。

その後、器は約1300℃という高温の窯で「本焼き」されます。この高温での焼成によって、釉薬が溶けて器に密着し、呉須の青が鮮やかに浮かび上がるのです。焼成中の温度変化や炎の流れによって、同じ図案でも微妙に異なる色味や表情が生まれることがあり、これが染付焼ならではの味わいとも言えるでしょう。

本焼き後はゆっくりと冷却され、器がしっかりと固まってから次の仕上げ工程へと進みます。ここまでのすべての工程に、職人の感性と技術が息づいていることが瀬戸染付焼の大きな魅力です。

完成後の仕上げと品質管理

焼き上がり後の検品と仕上げ作業

本焼きを終えた瀬戸染付焼は、窯から取り出された後に入念な検品と仕上げ作業が行われます。高温で焼き上げられた器は、焼成中に起こるわずかな歪みや色ムラ、釉薬のたまり、ピンホール(小さな穴)などが生じることがあります。そのため、職人は一つひとつの器を丁寧にチェックし、製品として出荷できる品質かどうかを見極めます

また、器の底部(高台)にはバリやざらつきが残っている場合があるため、専用の砥石で磨いて滑らかにする作業も丁寧に施されます。この仕上げ工程によって、手に持ったときの感触や、テーブルへの接地面の安定感が高まり、見た目だけでなく使い心地にもこだわった器が完成するのです。

一点一点異なる表情を楽しむ

瀬戸染付焼は、すべてが職人の手作業によって作られるため、同じデザインであってもまったく同じ表情の器は存在しません。呉須の濃淡や筆の運び、釉薬のかかり具合、焼成時の火の当たり方など、複数の要素が複雑に絡み合って、一つの作品に仕上がっています。

そのため、完成した器には**「手仕事ならではの個性」**が宿ります。絵柄の線の揺らぎや、藍のにじみ具合、光の加減で浮かび上がる釉薬の艶など、見るたび・使うたびに新たな魅力を発見できるのが、瀬戸染付焼の大きな楽しみのひとつです。

こうした一点物の風合いに価値を見出す文化は、量産品にはない“器との出会い”を大切にする日本の美意識とも深く関係しています。

ギフトや商品として出荷されるまで

仕上げを終えた瀬戸染付焼は、最終的に商品としての梱包・出荷の工程に移ります。割れ物である磁器は、配送時に破損しないよう、緩衝材を使った丁寧な包装が施されます。また、ギフト用途の場合は、桐箱や専用の紙箱に納められ、作家名や製品情報の入った栞が同封されることも多くあります。

最近では、オンラインショップやクラフトイベント、直営店など多様なルートで販売されており、国内外からの需要にも対応。現代のライフスタイルに合わせたパッケージデザインや、環境に配慮した素材選びも進められています。

このように、完成した瀬戸染付焼は、多くの人の手を経て、ようやく私たちのもとに届きます。その背景にある丁寧な工程を知ることで、器に対する愛着もきっと深まるはずです。

瀬戸染付焼の作り方を体験できる施設

瀬戸市内の陶芸体験スポット

瀬戸染付焼の魅力をもっと身近に感じたい方には、実際に制作工程を体験できる陶芸体験スポットの利用がおすすめです。愛知県瀬戸市には、観光客向けに絵付け体験や成形体験を提供している施設が複数あり、初心者でも安心して参加できます。

たとえば、「瀬戸染付工芸館」では、本物の呉須を使った絵付け体験が可能で、オリジナルの豆皿や湯呑みを制作できます。専用の筆や器具が用意されており、職人の指導を受けながら、自分だけの作品を仕上げる貴重な時間を過ごせます。体験後、焼成・仕上げされた作品は後日自宅に郵送されるため、旅行の記念品や贈り物にもぴったりです。

観光とセットで楽しめる工房見学

瀬戸市では、窯元の工房を見学できるプログラムやツアーも人気です。職人の実演を間近で見学しながら、実際に瀬戸染付焼がどのように作られているのかを学べる貴重な機会です。呉須による絵付けの様子や、釉薬がかけられる工程、本焼きに使われる電気窯やガス窯の解説など、普段は見られない工芸の裏側に触れることができます。

また、見学後には併設のギャラリーやショップで購入できる施設も多く、その場で気に入った作品を手に入れることができるのも魅力です。体験と観光を組み合わせた一日プランとして、家族連れや海外旅行者にも人気があります。

自宅でできる体験キットやワークショップ

遠方に住んでいる方や、気軽に挑戦してみたい方には、**自宅で楽しめる「染付体験キット」**もおすすめです。近年では、オンラインショップやクラフト系イベントなどで、無地の白磁と呉須ペン、説明書などがセットになった体験キットが販売されており、自宅で気軽に絵付け体験ができます。

さらに、オンライン講座やワークショップ形式でプロの作家が直接指導するサービスも登場しており、自宅にいながら本格的な技法を学ぶことも可能です。完成した作品を焼成して返送してくれるサービスもあり、初心者でも安心。こうした取り組みにより、瀬戸染付焼の魅力がより広い層に届くようになっています。

まとめ

瀬戸染付焼は、原料となる磁器土の準備から成形、絵付け、焼成、仕上げに至るまで、すべての工程に職人の技と感性が込められた伝統工芸です。特に呉須による藍の絵付けは、一点ごとに異なる表情を見せ、手仕事ならではの温かみと美しさを楽しめます。また、瀬戸市では制作体験や工房見学ができる施設もあり、誰でも気軽にその魅力を体感することが可能です。伝統を守りながら現代の暮らしにもなじむ瀬戸染付焼。作り方を知ることで、さらに深い魅力を感じられるでしょう。

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