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赤津焼の作り方とは?伝統技法から現代の制作工程までをわかりやすく解説

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愛知県瀬戸市の赤津町を発祥とする「赤津焼(あかづやき)」は、日本六古窯のひとつとして数えられ、千年以上にわたり受け継がれてきた伝統的な焼き物です。美しい釉薬や繊細な装飾、手仕事によるあたたかみのある風合いが、多くの人を魅了しています。

そんな赤津焼がどのように作られているのか、気になったことはありませんか?本記事では、赤津焼の作り方を、土づくりから焼成・仕上げまで、初心者の方にもわかりやすく丁寧に解説します。さらに、赤津七釉と呼ばれる釉薬の特徴や装飾技法、陶芸体験施設など、赤津焼を“作る”視点で楽しむ情報も盛りだくさん。赤津焼にもっと親しみを持ちたい方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。

赤津焼の作り方を知る前に|基礎知識と魅力

赤津焼とは?産地と歴史的背景

赤津焼(あかづやき)は、愛知県瀬戸市赤津町を中心に作られている陶磁器で、瀬戸焼の源流とも言われる焼き物です。その起源は平安時代末期までさかのぼり、日本六古窯のひとつにも数えられています。赤津地区は、良質な陶土と水に恵まれ、焼き物に適した自然環境が整っていたため、古くから多くの窯元が集まり、独自の技術と文化を育んできました。

また、茶の湯文化の発展とともに、赤津焼は茶道具としても高く評価されるようになり、今日では日常食器から美術工芸品まで多彩な作品が作られています。長い歴史の中で洗練された技法が蓄積されていることが、赤津焼の作り方の奥深さにもつながっているのです。

赤津七釉と伝統的な技法の特徴

赤津焼を語る上で欠かせないのが、「赤津七釉(せきしちゆう)」と呼ばれる伝統釉薬の存在です。これは、黄瀬戸・織部・志野・瀬戸黒・鉄釉・灰釉・御深井釉の7種類を指し、それぞれが異なる色味・質感・焼き上がりを持ち、作り手の技と感性が反映される赤津焼の大きな特徴となっています。

たとえば、黄瀬戸は明るく優しい黄色で、素朴な中に品のある雰囲気を醸し出します。織部は深い緑釉と筆による絵付けが印象的で、茶道具などに好んで使われます。こうした釉薬の扱いには高度な技術が必要で、焼成温度や釉薬のかけ方ひとつで仕上がりが大きく変わるため、作り方そのものが非常に繊細で芸術性に富んでいるのです。

赤津焼の作り方が特別とされる理由

赤津焼の作り方が特別視される理由は、単なる「器づくり」を超えた文化的・芸術的価値の高さにあります。工程ごとに緻密な技術と感覚が求められることはもちろん、釉薬や装飾の選択、焼成のタイミングなど、どれも作品の仕上がりを左右する重要な要素です。

また、赤津焼の多くは手作業によって丁寧に仕上げられる一点物であり、土の性質や気候、窯の癖までも読み取る職人の経験が必要とされます。機械的な大量生産とは異なり、ひとつひとつに物語が宿るその過程こそが、赤津焼の作り方を特別なものにしています。こうした背景を知ることで、次に紹介する各工程の意味や職人のこだわりが、より深く理解できるでしょう。

赤津焼の作り方|基本工程を順に解説

1. 土づくり|赤津ならではの陶土とその性質

赤津焼の制作は、「土づくり」から始まります。赤津地区では古くから良質な陶土が採取されており、粘りが強く、細工しやすいのが特徴です。この土は、粒子が細かく成形しやすい反面、焼き上がりの表情が繊細に出るため、職人の技術が試される素材でもあります。

まず、掘り出された陶土は大きな塊のまま乾燥され、砕いた後に水と混ぜて「泥漿(でいしょう)」と呼ばれるペースト状にします。その後、不純物を取り除きながら水分を調整し、適度な柔らかさに練り上げます。この工程で土の質が決まるため、最初の土づくりは赤津焼の美しさを左右する極めて重要なステップです。

2. 成形|手びねり・ろくろ成形の違いと特徴

土が整ったら、次は「成形」の工程に入ります。赤津焼では主に手びねり・たたら成形・ろくろ成形といった技法が用いられ、作品の用途や職人の表現意図によって使い分けられます。

「手びねり」は指先で土を少しずつ形にしていく方法で、自然な歪みや手作業の温もりが魅力です。「たたら成形」は粘土を板状にしてから組み立てていく技法で、皿や角皿などに使われることが多いです。「ろくろ成形」は、回転する台の上で器を引き上げていく技法で、特に赤津焼の茶碗や湯呑みなど、均整のとれた作品づくりに欠かせません

どの成形法でも、赤津焼の作り手は厚みや重心、指先の動きひとつひとつに注意を払って形を整えていくため、非常に繊細な感覚が求められます。

3. 乾燥・素焼き|形を整え、強度を高める工程

成形が完了した作品は、まずゆっくりと時間をかけて乾燥させます。急激に乾かすと歪みやひび割れの原因になるため、赤津焼ではこの乾燥工程もとても大切にされています。気温や湿度を見ながら、数日から一週間ほどかけてじっくりと水分を抜いていきます。

しっかり乾燥したら、約800℃前後の温度で「素焼き」を行います。これは本焼き前の下準備として、器に強度を持たせ、釉薬の付きやすい状態にするための工程です。素焼き後には表面がややザラつき、釉薬を均一に吸着しやすくなるため、釉掛け(釉薬をかける工程)に最適な状態となります。

このように、赤津焼の作り方では、ひとつひとつの工程が確かな完成度に直結するため、丁寧な仕事が積み重ねられているのです。

赤津焼を彩る釉薬と装飾技法

赤津七釉とは?色・特徴・使い分け

赤津焼の最大の特徴のひとつが、「赤津七釉(せきしちゆう)」と呼ばれる7種類の伝統釉薬です。これは、黄瀬戸・織部・志野・瀬戸黒・鉄釉・灰釉・御深井釉(おふけゆう)の7種を指し、それぞれが異なる色味と質感を持ち、職人が作品の意図に応じて使い分けています。

たとえば、黄瀬戸はやわらかな黄色で、貫入と呼ばれる細かいヒビ模様が特徴。織部は深い緑の釉薬に、筆描きの装飾が映える個性的な焼き物です。志野は乳白色の釉薬で、素朴ながらも表情豊か。これらの釉薬をどう組み合わせるか、どのタイミングでかけるかは職人の経験と感性に委ねられており、作品に唯一無二の個性を与えています。

筆描きや彫り模様などの装飾技法

釉薬だけでなく、赤津焼の美しさを引き立てるのが、装飾技法です。特に「筆描き」「掻き落とし」「彫り模様」といった手仕事による装飾が多く見られ、器に動きや表情を与えています。

筆描きでは、織部や鉄釉などの釉薬を使って草花や幾何学模様が描かれることが多く、手書きならではの揺らぎが味わい深さを生みます。掻き落としは、表面の土を削って模様を浮かび上がらせる技法で、立体感や陰影が出るのが魅力です。こうした装飾はすべて手作業で行われるため、同じ意匠でも二つと同じものはありません。

窯元によって異なる表現の工夫

赤津焼の釉薬や装飾は、窯元ごとに個性が大きく異なるのも魅力のひとつです。ある窯元では繊細な筆致と静かな色合いを重視し、また別の窯元では大胆な色彩と現代的な模様を取り入れて新しい表現に挑戦しています。

たとえば、ある若手作家は黄瀬戸にパステルカラーを混ぜた独自の釉薬を開発し、従来の赤津焼にはない明るくカジュアルな作品を展開しています。逆に、茶道具を専門とする窯元では、古典に忠実な形と釉薬を再現し、品格のある焼き物を提供しています。同じ赤津焼でも、どの窯元の作品を選ぶかによって印象が大きく変わるのは、こうした技法の工夫があるからこそです。

本焼きから完成まで|赤津焼の仕上げ工程

本焼きの温度と窯の種類

赤津焼の成形、素焼き、釉掛けを経た作品は、いよいよ「本焼き」に入ります。本焼きとは、釉薬をガラス質に溶かし、器を最終的な強度と美しさに仕上げる工程で、約1200〜1300℃という高温で焼成されます。

赤津焼では、伝統的な登り窯(のぼりがま)や現代的な電気窯・ガス窯が使われており、窯の種類によって焼き上がりの風合いや色味に微妙な違いが出ます。特に登り窯では、炎の流れや薪の灰による「自然釉(しぜんゆう)」の効果が現れ、独特の景色が作品に生まれます。焼成時間は10〜20時間にも及び、職人は温度管理や火の状態に細心の注意を払って焼き上げます。

焼き上がりを左右する「窯変」とは

「窯変(ようへん)」とは、焼成中に釉薬や土の成分、炎の動きなどの偶然によって生じる予測不可能な色や模様の変化のことです。赤津焼ではこの「窯変」が作品に奥行きや個性を与える重要な要素となっており、作家にとっては喜びでもあり、時に挑戦でもあります。

たとえば、織部釉が炎によって部分的に濃淡を変えたり、灰釉が流れ模様となって立体的な質感を生んだりすることがあります。こうした変化はひとつとして同じものがなく、**「窯の中で偶然に生まれる芸術」**として、多くの赤津焼ファンを惹きつけています。焼き物の魅力は、まさにこの「偶然と必然のあいだ」にあるのです。

仕上げ・検品・作品としての完成

焼き上がった作品は、まず十分に冷却された後に取り出され、一つひとつ丁寧に仕上げ作業が施されます。底の部分を削って平らに整えたり、ざらつきを滑らかにしたりする「削り」や「磨き」の工程は、器の使い心地を左右する重要なステップです。

その後、ヒビや歪み、釉薬のムラなどがないかを職人の目と手でじっくりと検品し、基準をクリアしたものだけが作品として出荷されます。こうして完成した赤津焼の器は、長く愛される実用の道具でありながら、芸術作品としての存在感も併せ持つ逸品として私たちの手元に届くのです。

赤津焼の作り方を体験するには?

現地で体験できる陶芸教室や施設

赤津焼の魅力をより深く知るには、実際に自分の手で作ってみる体験がおすすめです。愛知県瀬戸市赤津町には、観光客や初心者でも参加できる陶芸体験施設や窯元直営の工房がいくつかあり、プロの指導を受けながら赤津焼の制作に挑戦することができます。

たとえば、「赤津焼会館」では、ろくろ体験や絵付け体験などのプログラムが用意されており、実際の赤津焼に使われる土や釉薬を用いて、自分だけの器を作ることが可能です。完成品は焼成後に自宅へ配送されるため、旅の思い出としても人気があります。小さなお子さま連れでも参加できる施設もあり、家族での体験学習にも最適です。

作り方を学べるワークショップ・イベント

赤津焼の作り方を本格的に学びたい方には、期間限定のワークショップや地域主催のイベントへの参加もおすすめです。赤津地区では年に数回、窯元が集まって開催する「赤津焼フェア」や「窯元見学会」が開かれており、見学とあわせて簡単な作陶体験や装飾体験ができる企画も多数あります。

こうしたイベントでは、職人によるデモンストレーションが見られることもあり、実際の制作現場に触れる貴重な機会となります。また、参加者には作り方や釉薬に関する資料が配布される場合もあり、技法への理解を深める絶好の学びの場です。公式ホームページや瀬戸市の観光サイトで最新情報をチェックしておくと安心です。

自宅で楽しめる赤津焼風の制作キット

遠方で現地に行くのが難しい方には、自宅で楽しめる陶芸キットや絵付けキットも人気です。最近では、赤津焼風の釉薬カラーを再現した手作り体験キットがオンラインで販売されており、初心者でも気軽に作品づくりに挑戦できます。

たとえば、土と道具、ミニろくろ、絵の具、説明書がセットになった「自宅で赤津焼体験キット」は、焼成前の状態で送られてくるため、完成後は指定の窯元へ返送して焼いてもらう仕組みになっています。完成した器が後日届くので、自宅にいながらも本格的な赤津焼の雰囲気を味わえるのが魅力です。趣味として楽しむだけでなく、贈り物としても注目されています。

まとめ

赤津焼は、長い歴史と伝統を受け継ぎながら、一つひとつ丁寧に作られる焼き物です。土づくりから成形、釉薬の施し、本焼きに至るまで、すべての工程に職人の技と感性が込められています。赤津七釉や装飾技法など、作り方そのものに深い美意識が宿っているのが大きな特徴です。現地での体験やワークショップ、自宅での制作キットを通じて、自分自身でも赤津焼の世界に触れることができます。伝統を感じながら作る楽しみを、ぜひ体験してみてください。

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